三日月の下、君に恋した
「専務もずるいよな。食堂にまで連れてくることないじゃん。あれじゃ、自分が呼んだって社内中に言いふらしてるようなもんだよ。葛城リョウを連れてきたのは、早瀬さんなのに」

「そうなの?」

 太一はしっかりうなずく。


「実は、まだ広告の件を了承してもらったわけじゃないんだ。なんか、条件だったらしくて。うちの会社を見学してから、どうするか決めるって」

「えーっ、ますますヤな感じい。そんなやつ断っちゃえば?」

「そんなことしたら、早瀬さんの立場が悪くなるだろ」

「あーそっかあ」


 菜生は心配でたまらなくなった。

 もしかして、自分のことが関係しているのだろうか。あのとき自分をかばったせいで、彼がやっかいなことに巻きこまれているんじゃないかと思うと、菜生は胸が苦しくなるほど不安になった。

 とにかく梶専務の誤解を解かなくては、と思った。

 社長との関係を──事実をきちんと説明すれば、専務にもわかってもらえるはずだ。

「じゃあ俺、先に行くわ」

 太一が立ち上がった。
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