三日月の下、君に恋した
 そのとき携帯の着信音が鳴って、航はいそいで表示を確かめた。待ち望んだ相手ではないとわかって、げんなりする。


「いったい、君はいつになったらもどってくるんだ?」


 松田久雄の、いつになくいらついた声が聞こえてきた。

「もう一年になるんだぞ。いくらなんでもひどすぎないか。私はもう無理だと何度も言っているのに、君はまったく耳を貸そうとしない。事情があるなら説明してくれ」

「それはその……」

「とにかく、居場所さえわからないんじゃ、どうしようもない。教えてくれ、今どこにいるんだ。今から会いに行く」

「松田さん、落ち着いてください」

「私は冷静だ」


 それから延々二十分近く、松田の小言を聞かされるはめになった。ほぼ毎週かかってくる松田からの電話は、もはや恒例化しつつある。

 にしても、今日のはいつにも増して執拗で長かった。電話で説得するのは、そろそろ限界かもしれない。

 電話を切ると、航は縁側のひだまりに仰向けに寝ころんで、目を閉じた。
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