フラワーデイズ
誕生日に自宅に花束を届けさせるのはわりとよくある注文だ。
未だに花屋というのは男性にとっては敷居が高いらしくてインターネットで注文して家に届けてもらうデリバリー式が定着しつつある。もちろん、それだけじゃなく仕事で帰宅が遅くなるから確実に届けたいという理由もあるのだろうけど、結局男の人にとって花屋は特別な場所で近寄りがたいのは変わらないらしかった。
「あと一時間か」
壁掛け時計を見ながら呟く。
平日の夜は暇な時間だ。給料日なら客はやって来ることもあるけど、月末近いこの時期は一番暇な時間だった。
「閉店準備が15分だから30分はあるなぁ。うーん、面倒だけどやっちゃうか」
作業台のまわりの掃除を終えると箒と塵取りを片付けながら気合を入れるように背伸びをする。一人きりの店内は色とりどりの花に溢れながらも、がらんとした空気が流れていた。
カランカラン。
客の入店を知らせるベルの音に、裏に入っていた私は笑顔を作ってレジに出る。見れば背の高い男の客が珍しそうに店の中を眺めていた。