キズナ~私たちを繋ぐもの~
「どっちにしろ、達雄さんとはしばらくは距離を置いた方がいいだろ?」
「……うん」
「じゃあ、鞄は?」
私はうまく動かない頭で、必死に考えながら数日分の荷物を詰め込んだ。
時折り部屋の全身鏡に自分の姿がうつる。
ヒドイ顔をしている。
腫れぼったい眼、全体的に少しむくんでいるかもしれない。
そして耳には、兄のくれたピアス。
「……」
はずそうかと手を当ててみるけど、はずせなかった。
これがなくなってしまったら、もう兄と私をつなげるものがなくなるような気がして。
「仕事の資料とかは?」
「うん。鞄があれば平気。こんなもので、多分大丈夫」
「じゃあ行こう?」
司は、これ以上兄と話す気はないようだった。
それは兄も同じのようで、居間の前で声をかけても、出てくる気配はなかった。