キズナ~私たちを繋ぐもの~
私は持ってきたボストンバックを端に寄せ、財布の入った小さな鞄だけを持って外に出た。
階段を走るように降りると、携帯電話が再び鳴る。
ちらりと見えた、発信者の名前に胸が激しく動いた。
『西崎達雄』
ついに、私の手紙に気づいたんだ。
でて、まともに話せる自信はない。
だって、もう喉元が震えているくらいだもの。
迷った挙句に、携帯の電源を切った。
兄はショックを受けるだろうか。
でも、あの手紙を読んだなら、きっと私の気持ち分かってくれるでしょう?
振り返りたくはない。
あの家を出て、兄を解放するって決めたんだから。
そして、私も兄を忘れるべきなんだ。
新生活は、やらなければいけない事がたくさんある。
日々の忙しさに、何もかもを紛らわせてしまおう。
一人で生きて行くのは、心細いけど。
きっと頑張れる。
頑張らなきゃ行けない。
「まずは髪を切りに行こう」
形から入るのが、一番。
無理やりにでも変えて行けば、いつかは気持ちもついてくるはずだ。
呟いた私の独り言は、3月の春の息吹を含んだ空気に溶けていった。