琥珀色の誘惑 ―王国編―
「今はそんな心配は要りませんよ。アルは国民の信頼も厚く、多くの人間が国王に、と望んでおりますから」


テロのことを尋ねると、ヌール妃はあっさりと笑っておられた。


一週間後の結婚式を控え、ミシュアル王子と舞は、明日、砂漠に旅立つ。昨日の今日ではあるが、首都を出る挨拶にふたりは王宮を訪れた。

大広間で挨拶の儀式を済ませた後、舞だけ後宮に通された。

ミシュアル王子は執務室で公務にあたっている。終われば女官が呼びに来る段取りだ。

お茶会の途中、ヌール妃が国王陛下に呼ばれたので、舞は失礼して庭を散歩することにしたのである。

後宮を覚える為にも丁度良い、とヌール妃は賛成してくれたが……。


「他の方の庭には立ち入らないように注意なさい。特に……ハディージャ様には気をつけて」



日本で見かけるような、太い幹の大木は見当たらない。幹の細い低木がほとんどだったが、それでも砂漠の国とは思えないほど緑で溢れていた。小鳥のさえずりも聞こえる。

陽射しはきついが、湿度はないのでムッとするような暑さはない。

これが沿岸部になるとグッと湿度が上がり、中央の山間部に向かうと気温が下がる。そして世界最大級の砂漠では、夜は氷点下、真昼には摂氏五十五度に達するという。

本当にクアルンは広い。


< 149 / 507 >

この作品をシェア

pagetop