琥珀色の誘惑 ―王国編―
「おやおや、王太子殿下ともあろうお方が、多数派の我が部族を敵に回すおつもりですか?」


ヤイーシュは一見すると余裕の口ぶりだ。そのままゆっくりと後退する。だが……彼の額には薄っすらと汗が浮かんでいた。


その一方で、ミシュアル王子に引くつもりなど一切ない。

逆に、腰に吊るした紐を解き、そのまま、左手でジャンビーアの鞘を投げ捨てた!


“抜いた剣をどちらかの体に突き立てるまで”


その行為は、ミシュアル王子がヤイーシュに対して、命懸けの決闘を宣言するものだった。



ヤイーシュはこの時、ミシュアル王子に逃げ道を用意していたのだ。

ここにいるのは王太子の婚約者アーイシャ・モハメッド・イブラヒームではない。それを王子自身が認めれば、彼の名誉は傷つかない。


――月瀬舞という女は知らない。


ミシュアル王子が一言告げて、ヤイーシュの結婚を祝えば終わりだ。それは同時に、ヤイーシュにとっても逃げ道だった。


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