琥珀色の誘惑 ―王国編―
『ご苦労だったな、ヤイーシュ』

『呑気なものだなターヒル。危うく死ぬ所……いや、殿下をこの手で殺す所だった』


舞の横でヤイーシュと同じように膝をついていたターヒルが、青いトーブを手に歩み寄る。

ヤイーシュも立ち上がろうとしたが、膝が笑い、思うようにならない。


『それは私のせいではない。私が頼んだのは、アーイシャ様を連れ戻すべく協力してくれとは言ったのだ。誘惑しろと言った覚えはないし、ましてや……やり過ぎだ』


ターヒルは赤い染みのついた布を指し示し、怒ったような顔をした。

そんなことは言われなくてもわかっている、とヤイーシュは胸の内で呟く。

舞が女官に騙され、行方不明であることは聞いていた。だが、砂漠で出会ったのは全くの偶然である。


クアルンの女であれば男に従順だ。

だが、自由民主主義の国家で育った女とは、愛を理由に結婚しても上手く行くはずがない。ヤイーシュはその考えを捨て切れずにいた。

舞とミシュアル王子の結婚は、最終的には不幸な結果を呼ぶはず。ならばいっそ……。


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