琥珀色の誘惑 ―王国編―
ターヒルの肩を借りながら、ヤイーシュは他の連中に聞こえぬよう小さな声で答える。


『……ヤイーシュ。私はどうやら、酷な頼みをお前にしたようだ』


同情的なターヒルの眼差しに、ヤイーシュはムキになって言い返す。


『馬鹿を言うな! 私は……妻にするのはクアルン人と決めている!』

『ではもし、アーイシャ様がお前を選んでいた時は?』

『愚問だ! 私は何があっても主君は裏切らん。女の為に……そんな、たったひとりの異国の娘の為に』

『……わかった。もう言うな』

『……』



だが、もしも。

ほんの少しだけヤイーシュは叶わぬ未来を思い描いた。


ミシュアル王子と舞の婚約が破談となり、彼女が日本に戻ることになったら、その時は……。


ヤイーシュは振り返り、太陽を見つめる。その眩しさに、彼は目を伏せるしかなかった。 


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