琥珀色の誘惑 ―王国編―
昨日のラシード王子は、妙にかしこまった衣装を着ていた。


「アルが何を考えているのかわからない。僕にも正装で結婚式に立ち会えと言うんだ。おまけに、アーイシャ殿のお父上は呼んでいないと言うし……」


舞を砂漠まで送る道中、ラシード王子はヘリの中で兄に対する不満を口にする。

そして、舞が怪我の具合を尋ねても……。


「そんなこと、気にしている場合じゃない。いっそ、もっと大怪我をしたほうが良かったのかも知れない」


ラシード王子は絶望的な目をして呟いた。


「ちょっと、ラシード! そんなに落ち込まないでよ。ひょっとしたら、アルが一発逆転の秘策を考えてるかも知れないでしょ!」

「アーイシャ殿、君はどうしてそんなに楽観的なんだ。アルはマッダーフの前で言った。ライラを第一夫人にする、と。これはもう動かせない。ただ、どうして僕が使者に選ばれたのか……」


王族が使者に立つのは滅多にないことだという。ラシード王子は「君が日本のプリンセスなら話は別だが」などとブツブツ言っている。

だが、舞は間違ってもそんなご大層な身分ではない。一介の公務員の娘だ。

そしてライラへの使者には、ヤイーシュが選ばれたという。彼がアル=エドハン一族の元までライラを送り届けるのだそうだ。


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