琥珀色の誘惑 ―王国編―
さすがのミシュアル王子も、オアシスではそれ以上の行為には及ばなかった。いや、水中であんな真似をするだけでも充分だろう。

泉から上がると、お付きの女性たちが体を拭うバスタオルを舞に差し出す。


(なんかお姫様みたい~)


実際に王太子妃で“プリンセス”の称号があるのだが、そんなこと急にはピンと来ない。しかしその時、舞は気付いてしまったのだ。


(ちょっと待って! 最初から着替えを用意して来たら、裸で入らなくても良かったんじゃ)


反対側の岸で、年配女性の世話を受けるミシュアル王子を眺めつつ。――まあ、楽しかったからいいか。舞はクスッと笑ったのだった。


「舞! 帰る準備をして参る。女たちとここで待て。オアシスから一歩も出るでないぞ!」


対岸からトーブを身に纏ったミシュアル王子は大声で叫ぶ。

アラビア語で呼ぶ時は“アーイシャ”、日本語は“舞”と使い分ける辺りはさすがだ。舞だったら混乱するだろう。


「はーい!」


今夜はちゃんと優しくしてよね、と胸の中で付け足しながら、舞は大きく手を振った。


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