琥珀色の誘惑 ―王国編―
王太子の結婚に盛り上がっているのは、日本とクアルン王国内の大都市のみ。

近隣国に至っては、異国の花嫁を娶るという噂くらいか。一般市民には花嫁の顔どころか、国籍・名前・年齢なども明かされてはいなかった。



そして舞はともかく、ナーヒードにはそれが判ったが……。彼女はあえて、舞の素性を明らかにしなかった。

盗賊団がミシュアル王子の逆鱗に触れることを恐れたら、二人を即座に殺して砂漠に埋めて行くかも知れない。放置されても、この世界一過酷と言われるアブル砂漠である。生きて町まで辿り着ける自信はなかった。


――もし、ミシュアル様が助けに来て下さらなかった場合、私たちは性奴隷として、近隣の豪族に売られてしまうでしょう。そうでなくとも、盗賊団の野営地に着けば、彼らの慰み者になってしまいます。尋ねられたら必ず『純潔である』とお答え下さい。処女は高く売れるので、競りにかけられるまでは無事でいられると聞きます――


舞に向かって、ナーヒードは懸命に小声で伝えるが……。


「うん、絶対にアルが来てくれるって。そんな……売られるなんて、ありえないってば」


人身売買なんてどこか他人事の舞は、呑気にも日本語でナーヒードを励まし続けていたのだった。


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