琥珀色の誘惑 ―王国編―
「姉貴が王妃って……信じらんねぇんだけど。なんか、俺らの生活もすっごい変わったから、ホントなんだよなぁ」


遼の言葉通り、月瀬一家の生活はガラッと変わっていた。

何と言っても公務員住宅を出て、一戸建てに住むことになったという。それもこれも警備上の問題だ。門の横に常駐警備員がいるだけでなく、家の隣が交番だというから驚きだ。

加えて、クアルンに呼ばれるまでは、それぞれにSPが付いていたらしい。

そのVIP待遇に、


「友達も彼女もドン引きでさ……今の俺は日本一有名な高校生だぜ。コンビニでマンガの立ち読みも出来ゃしない」

「ご、ごめん」


孤立させて申し訳ないと思い、舞は慌てて謝った。

だが、さすが舞の弟と言うべきか、「ま、何年かして落ち着いたらさ。王妃の弟ってんでモテモテになるから……。心配すんなよ、姉貴!」遼はそう言って底抜けの笑顔を見せてくれた。


一方、父は少し離れた位置で舞を見つめ、中々話しかけようとはしなかった。

そんな父に向かって手を前で揃え、舞は頭を下げる。


「えっと、お父さん。あの……長い間育ててくれて、ありがとうございました。あの、ちゃんとした挨拶も出来ないまま結婚しちゃって、ごめんなさい。それに、養女の件も……」


あらためて口にするのは何となく気恥ずかしい。

だが、国籍上はサディーク王子の養女になってしまった舞である。日本で披露宴をするとは言え、家族だけで会えるかどうか判らないのだ。父と会ったら“嫁ぐ日の挨拶”をしよう! と心に決めていた。


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