琥珀色の誘惑 ―王国編―
彼女が懸命に言葉を選んでいると、突然、父が頭を下げた。


「すまん! 国の為に引き受けた話だった。だがどうせ、婚約は解消になる、と。お前が居なくなる直前まで、そう言われると思っとったんだ」


父は、他国の王子に嫁がせる娘だ、と夢物語のような気持ちで舞を育てて来たと言う。

それが、ミシュアル王子が訪ねて来たあの日から、夢は現実となった。何が何だか判らないうちに話は進み、気付いた時には、娘は家からいなくなっていたのである。

だが、このままでは舞を第一夫人には出来ない、と言われた時、父は娘を返してくれと言ったらしい。


「やはり殿下……いや、陛下は素晴らしい方だった。約束通り、お前を第一夫人にしてくれたんだからな。とはいえ、何もかも急過ぎて……お前が困っているんじゃないかと思うと」


ガミガミ口うるさく、婚約の話を聞いたときは自分勝手な父だと恨んだこともあった。家族と急に引き離されて、寂しいと思ったことも。

でも、十五年前に父が婚約を受け入れてくれなかったら、ミシュアル王子と結ばれることはなかったのだ。

舞は満面の笑顔を作ると、


「何言ってるのよ、お父さん! わたしはアルのことが大好きだから、結婚できてメチャクチャ幸せ。お父さんたちには迷惑掛けるかも知れないけど……。これも“インシャーアッラー”ってヤツだから、許して下さい」


そう言って、もう一度頭を下げた。

その大好きな旦那様と、昨夜から一言も口を聞いていないことは……もちろん、内緒である。


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