琥珀色の誘惑 ―王国編―

(16)王妃への階段

舞の腕に一人の幼児が抱かれていた。

ライラの娘、小さなアーイシャだ。彼女は義理の叔母に抱っこされてご機嫌である。

海のように深い青の瞳、そして肩までの……金色の巻き毛を揺らしていた。


「アーイシャ様。間もなく陛下がお見えになられます。……やはり、やめた方がよろしいわ」


舞の横に立ち、ライラが小声で呟いた。


「でも、ライラもラシードも本当は反対なんでしょ?」

「それは……」


きっぱりした舞の口調に、ライラは口ごもる。


「アルが公式に発言した訳じゃあるまいし。こうするのがいいんじゃないか、って言うのに従っただけなんでしょう?」

「陛下のお言葉は、全てを聞かずとも察するのが周りの者の務めですのよ」


ライラの気持ちはよく判る。日本にも“一を聞いて十を知る”といったことわざがあるくらいだ。だが、舞の決意は固かった。



『ラシード王子の娘、アーイシャ・ビント・ラシード・アール・ハーリファ王女です』


六角形のホールにどよめきが走った。


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