琥珀色の誘惑 ―王国編―
部屋の隅に控える女官たちが気になるのだろう。桃子はさらに小さな声で言った。


桃子の言いたいことは判る。

ヨーロッパ諸国の王室が来日した時とは全然違うということだろう。その辺の国はとても華やかで、王妃のファッションとか言って特集が組まれることもあるくらいだ。


でもクアルン王妃の場合、イスラムの制約があって国王と同席しても真っ黒のアバヤ姿である。

顔を見せることはもちろん、手を振るどころか声も出せない。とくに国賓として、外交の場に王妃が立つことはあり得ないのだ。


そのせいか、舞は無理矢理連れて行かれた“悲劇の王妃”だと言われ始めている。

彼女の犠牲により我が国は原油の輸入先を確保した、などという、とんでもない意見もあった。


「まあ、そういうルールだしね。それに、アバヤで隠してるけど……見て見て、こんなの着る様になっちゃった!」


今日の舞は淡いピンクの花柄、シフォンのワンピースだ。

七分袖でレースとフリルがたっぷりのデザイン。ミシュアル王子が日本に来るなり見つけて、「舞に着せたい」と言い出した。

でも既製品はスカート部分がミニ丈だった為、わざわざ膝下のものを作らせたという。

デコルテを綺麗に見せるスクエアネックがポイントだ。そのため、重い印象の黒髪をラフに纏めてアップにしている。髪留めも同じ柔らかいピンク……どちらにしても、以前の舞なら手に取ることもなかった代物だろう。


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