琥珀色の誘惑 ―王国編―

(21)永遠の愛を込めて

『……不味い』


ミシュアル王子はアラビア語でポロッと口にした。


「あ! 今、マズイって言った。アルってば、ひどーい!」


今、彼が食べているのは、舞がわざわざ厨房を借りてまで作ってきたホットケーキだ。

バターとシロップたっぷりのホットケーキと、甘いカフェオレ。つい二ヶ月前まであった日常に、舞は幸せを感じていた。


もちろん、ミシュアル王子との結婚生活に不満があるわけではない。

クアルンの食べ物はそれほど癖がなく、日本人の口にも合うものも多い。だが、どうしても舞が我慢出来ないのが……アラビアコーヒーだった。

スパイシーな香りが好き、と言う人もいるらしい。でも、舞には防虫剤を溶いて飲んでいるような気がしてならない。

ところがミシュアル王子に言わせれば、「日本で飲むコーヒーはコーヒーではない」のだそう。


「違う。ホットケーキに対して言ったのではない。やはり、日本のコーヒーは馴染めんな」


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