琥珀色の誘惑 ―王国編―

web拍手SS―ヤイーシュの女運―

サラサラの髪を靡かせて、ヤイーシュはドバイ国際空港に降り立った。

本当であれば日本に向かい、警備や披露宴の最終チェックをしなければならないのだが、王命とあれば仕方ない。彼は国王が花嫁に贈るダイヤモンドの指輪を受け取りにわざわざやって来たのだ。

こんな使いっ走りのような仕事、シークの称号を持つヤイーシュには相応しくない。

と言いたいが……受け取るモノがモノである。時価百五十万米ドルはする宝石となれば、一財産だ。そのまま持って逃げようとする人間がいてもおかしくはない。


ヤイーシュは深いため息をついた。


同じシークとはいえ、動かせる金は桁外れだ。ヤイーシュではその十分の一が精々だろう。

だが……おそらく彼女であれば、百五十ドルの品物であっても愛する男の贈り物であれば満面の笑顔で受け取るだろう。


(い、いや、別に……あんな日本の小娘、なんとも思ってないぞ!)


胸の内は敬称を付けず、あえて悪態を吐いてみる。

ヤイーシュはクアルン人女性、せめてムスリムの女性を妻にすると決めていた。

そうでなければ、彼の母親の二の舞になるのは目に見えている。便利で豊か、自由な暮らしになれた女性が、砂漠で過ごせるはずがない。


(きっと、舞だって……その時は私が)


良からぬ考えに囚われかけ、彼は慌てて振り払う。


ムスリムの誓いや部族を捨ててまで女を追いかけるなど愚の骨頂だ。


(やめよう。馬鹿馬鹿しい)


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