琥珀色の誘惑 ―王国編―
アラビアンコーヒーを飲みひと息ついていた彼が、宝石店の関係者と待ち合わせの場所に行こうとした時だった――。



コーヒーショップを出て、正面に一人の女性が佇んでいた。

黒い髪、黒い瞳、素朴で純粋そうな眼差しが何処か舞に似ている。きっちり体の隠れる服を着て、大きめのスカーフが肩に掛かっていた。どうやら、髪を隠していたのがズリ落ちたようだ。


(何をしてるんだ。あんな場所で無防備な……)


ドバイはアラブ諸国の中では治安の良い国だ。

だが観光客が多い為、外国人目当ての万引きや置き引きには要注意である。目の前の女性は明らかに東アジア系の顔をしており、旅行者に見える。

ヤイーシュがそんなことを考えていると、彼女と視線が合った。


直後、女性は突き飛ばされ、手にしたバッグを奪われた!


『――引ったくりだ! 警備室に連絡してくれ』


コーヒーショップの店員に声を掛け、ヤイーシュは女性の元に駆け寄る。


「大丈夫ですか? お怪我は?」


思わず、舞に話しかけるように日本語で尋ねてしまった。


「あ、はい。大丈夫です、すみません……あの、観光客の方ですか?」


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