琥珀色の誘惑 ―王国編―
ヤイーシュもライラの件は聞いていた。

相手がイスラムの男であれば、ライラもあんなことにはならなかったはずだ、と。ターヒルも同意見である。

ヤイーシュの場合は、一層アメリカ人に対する不信感を強めた出来事だった。


それが……誇り高い砂漠の男が女性を騙して、純潔を奪うとは。

ヤイーシュの胸に怒りが湧き上がり、彼は拳を握り締めていた。


「私、全てを諦めて国に帰るところでした。もう、ドバイに泊まるお金はないし……飛行機代なんてとても」


おまけにパスポートも何もかもバッグに入っていて、身分証もないという。


「大したことは出来ないが……」


ヤイーシュが大使館員に話しを通し、パスポートの再発行を急がせようと口にした。飛行機代も心配は要らない。そう告げたが、


「いいえ、そんな。あの、もしよければ、大使館までのバス代だけ貸して頂けますか?」


わずか数ディルハムだけでいいと言う女性に、ヤイーシュは感動していた。


(日本人女性はこれほどまでに慎み深いのか……)


ならば、とヤイーシュは手持ちの米ドルを全て彼女に渡したのだ。

といっても、三百ドルもなかった。必ず返すという彼女に、「イン・シャー・アッラー」と伝え、ヤイーシュはその場を立ち去ったのである。


< 505 / 507 >

この作品をシェア

pagetop