琥珀色の誘惑 ―王国編―

(12)花嫁になる条件

『では、背後関係はなかったのだな』

『はっ。犯人は失業者で組織的なものは見つかりませんでした。ただ、王族の不品行に対する不満を、巧妙に異国の血が原因と入れ替える風潮が出ています。おそらくは、殿下のご結婚とご即位が近づいていることが理由だと思われますが』


王宮内にある王太子の執務室である。

出入り口はふたりの衛兵が固め、中にいるのはミシュアル王子と側近のターヒルにヤイーシュの三人のみ。質問に答えたのは、王子より一段低い床に身を屈め、膝をつくターヒルであった。


『マッダーフに繋がる糸は皆無、か』


専用の椅子に座り、ミシュアル王子は右手で顎を撫でながら呟く。

反日派の背後に軍務大臣マッダーフの存在を感じ、王子は一年以上前からターヒルに調べさせていた。しかし、思わしい成果を出せぬまま、舞をこの国に迎える時期になってしまった。

申し訳なさそうに無言で項垂れるターヒルの隣で、ヤイーシュが頭を上げた。


『殿下――私のほうでは気になる点が一つ浮かびました』


ヤイーシュの長い砂漠色の髪は、十センチ程短くなっていた。クアルンで髪を染める男はいない。ひと月も赤い髪でいることは耐えられず、彼は塗料がついた部分を切った。


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