弟矢 ―四神剣伝説―
千人溜(せんにんだまり)の門外に身を潜め、乙矢らは静まり返った関所の気配を窺った。

様子がおかしいと、斥候から戻った新蔵と共に一行が駆けつけた時、そこはまさしく無人であった。


「ありえぬことでしょう? 初めは罠かと思いましたが……本当に誰もおらぬのです」


もぬけの殻とはこういうことを言うのだろう。

門は閉じられており、人の気配は全くなかった。周囲の山林もくまなく探したが、特に罠らしきものも見当たらない。

そして、関所の中に最初に足を踏み入れた正三が、御制札場(ごせいさつば)に、罪人の処刑を記した高札を発見した。


『罪人を匿った咎により、明朝日の出の刻、高円の里にて順番に里人の処刑を行う。幕府転覆の首謀者たる爾志一矢、遊馬弓月両名が出頭しだい、処刑を取り止めるものとする。美作関所 別当代(べっとうだい)武藤小五郎』


――日の出まで、二刻(ふたとき)を切っていた。



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