弟矢 ―四神剣伝説―
「貴様ぁ! 四天王家の面汚しが――それ以上、生きて恥を晒すなら、この俺が引導を渡してやる!」

「よせ、新蔵(しんぞう)!」


小柄な少年に新蔵と呼ばれた男は、乙矢より二つ三つ年上だろう。

熊ほどではないが、比較的細身の乙矢に比べ、ふた回りは大きく感じた。筋肉の鎧を身に着けているようだ。

長く重そうな刀を抜くと、乙矢に飛び掛る。新蔵の殺気は本物だった。だが、肝心の乙矢は逃げるどころか、抵抗すらしようしない。


「立てっ!」


新蔵は乙矢の襟首を掴み引っ張り上げた。そして、抜いた刀を逆手に持ち替え、心の臓を一突きにしようと腕を振り下ろす。


その腕を止めたのは『青龍二の剣』。


先ほどの少年が背負った剣を鞘ごと突き出し、新蔵を制止した。


「弓月(ゆづき)様っ! 邪魔はなさらないで下さい。このような男に、爾志の名を持つ資格はない!」


『弓月』の名に、乙矢は心の臓を鷲づかみにされたほどの衝撃を受ける。


「己の意に染まぬ……期待にそぐわぬと言って、丸腰で無抵抗の者を殺すなら、その剣は蚩尤軍(しゆうぐん)と同じだ!」


その瞬間、月の光が川面を照らし、少年の顔も照らした。


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