弟矢 ―四神剣伝説―
そこには、斬ったはずの『鬼』が、平然と立ち続けている。


「馬鹿な……」


さっきの乙矢同様、正三も確かな手ごたえを感じた。その証拠に、刀傷からは血が噴き出している。それは明らかに、致死量と呼べる出血。


「こいつ……痛くねぇのか?」


乙矢は、強さに対する敗北感ではなく、得体の知れない物に対する恐怖で、少しずつ後ろに下がった。

だが、正三は逆に『鬼』の方へにじり寄る。


彼は、背中の『二の剣』に追い立てられるように、ここまでやって来たのだ。

そのまま静かに、腰に差した刀を抜き対峙する。隙を突いて、正三の方から一気に攻める。仕掛けられる前に先手を取る、それは正三の気性で戦法だろう。

だが、斬り結んだ正三の刀は、一瞬で『青龍一の剣』により弾き飛ばされた。正三はすぐさま、脇差で抵抗する。


あの出血で、動きが鈍るならともかく、なぜ、剣速が増すのだろう? 見ている弓月や乙矢にもさっぱりわからない。



少しずつだが、正三は押されていた。

劣勢は明らかで、ついに脇差の刃もボロボロになってしまった。これでは戦えない。一刻も早く『鬼』を止めねばならぬのに。

そんな感情を急き立てるように、正三の全身に声が響いた。


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