弟矢 ―四神剣伝説―
『僕のせいです! 僕が悪いんです! 僕がおとやを連れて行ったんだ。だから、父上、おとやを殴らないでくださいっ!』


そう叫んで、一矢が畳に平伏していた。


『あの……なんで、こんな』


十歳かそこらの少年には似つかわしくない、ガラガラの声だった。二歳年上の姉、霞が乙矢に近づき、そっと頭を抱き寄せた。


『良かった。あなたと一矢は、『白虎』を封印する神殿に入ったのよ』

『あ……かずや、は?』

『僕は大丈夫だ。おとやは三日も意識がなくて……鬼になったのかと思った……このまま死ぬんじゃないかって……生きてて良かった』


そう言う一矢の目にも涙が浮かんだ。


『一矢があなたを連れて神殿から逃げ出してくれたのよ。一矢も気を失ったけど、すぐに意識を取り戻して……母はあなたを失うのかと思いましたよ。二度とこんなことはしないで頂戴』


そうして、今度は母上が乙矢を抱き締めた。

確かに、神殿に乙矢を引っ張って行ったのは一矢だ。『僕とおとやと、どっちが神剣に相応しいか、はっきりさせよう!』そう言って。


(ああ、一矢が無事で良かった。もう二度と一矢や父上を怒らせないようにしよう。母上と姉上も泣かせないようにしないと……大好きな家族と離れずに済んで、本当に良かった)


乙矢は、心の底から安堵の息を吐いた。


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