弟矢 ―四神剣伝説―
いきなりの核心に乙矢はあたふたとする。


「あ、いや、そういう訳じゃ……あの、俺なんかが近くにいちゃ……一矢もいるし」

「乙矢殿は口惜しくないのですか?」

「え?」

「一矢殿にあそこまで言われて……なぜ、新蔵らに言い返すように、一矢殿にも言い返さないのです」


弓月はそれが、我がことのように口惜しくてならない。

確かに、一矢が現れなければ弓月をはじめ、全員が死んでいただろう。だが、乙矢がいなければ、それ以前に弓月と正三は、確実に死んでいたのだ。

弓月の目に、兄弟の関係はとても対等なものには映らなかった。


「一矢はさ、一番でなきゃだめなんだよ」


乙矢は水を汲むのに必要な、桶と天秤棒を下ろすとポツリと言った。

だが、その意味は弓月にはわからぬようで、首を傾げている。


「だから、さ。ほんの子供の頃から、アイツはやたら期待されて、絶対に白虎の持ち主だって言われて来たんだ。今なんか特に、そうあって欲しいって言うより、そうじゃなきゃ困るって感じだろ? 俺は弟矢(おとや)……二番矢なんだ。兄矢(はや)、一番矢のアイツが勝ち続ける限り、俺に出番はないし、ないほうがいいって思ってる」


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