弟矢 ―四神剣伝説―
いつの間にか、乙矢と新蔵はかなり離れてしまった。しかも、乙矢は木偶(でく)のように棒立ちだ。好機とばかり、敵が斬りかかってきた。

だが乙矢は、半ば無意識で身体が動いていた。

敵を半身半立ちで受け、太刀取りで小手を返す。一転……さらにもう一転、手刀で刀を叩き落とした。最後に、グッと力を入れ、手首をへし折る。

二人目も入身投げの変形で懐に入り、手の平で首を叩く――敵の意識を一瞬で落とす。

その調子で、あっという間に五人は黙らせる。


「――爾志流無刀術、か。嫡子相伝と聞いたが。やはりお前も習ってたんだな」


それを見ていた新蔵が、感心したように呟いた。


「父上に叩き込まれた。実戦で使うのは初めてだ。それに、殺してないし」

「お、お前なぁ。この状況がわかってやってるのか!?」

「まあまあ大丈夫だって、しばらくは動けねぇから」



二十人からの部下は全員倒され、その場に立っているのは、乙矢に矢を放った敵将一人だけとなった。

男は新蔵に斬りかかるがあっさりかわされ、背後を取られる。


「さて、もっと色々話してもらうぞ。それと、狩野の居場所まで案内して貰おう」


咽元に突きつけられた長刀の刃に視線を落としつつ、男は答える。


「一つだけ教えてやろう。隠れ里は鬼に襲われる。そう、神剣を奪い、里人を殺し、逃げた男……爾志乙矢が鬼となり、里に残った者を一人残らず殺すのだ!」

「なっ! なんでそんな……」


理由を訊ねる間もなく、男は自ら新蔵の刃に咽を突き刺し、果てたのだった。


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