弟矢 ―四神剣伝説―
いや……まだ、偶然の可能性もある。一矢の行動に必死で理由を探す乙矢だったが、新蔵は容赦なかった。


「奴は、間違いなく蚩尤軍と繋がってる。俺たちをこの里に誘導し、引き離したのだ。理由は――お前か? 乙矢。奴はお前を憎んでる。しかも、殺しておしまい、なんて単純なものじゃない。あの男は、一体何者だ!? 鬼にならず神剣を扱うのは、勇者ではないのかっ!」


朽ちかけた『鬼』は、首を傾けたままゆらゆらと立っている。どうやら視界が定まらず、動けぬらしい。

乙矢は『鬼』の動きに注意を払いながら、掴みかかる新蔵の腕を振り払った。


「一矢は勇者だっ! 勇者でなきゃならないんだ。――でも、なんでおきみまで狙われなくちゃなんねぇんだよ!」


乙矢の問いに、新蔵は言葉を選び、真実を告げる。


「おきみが……目撃したのだ。『青龍』を盗み、里人を殺した下手人を」


「――それを早く言えよ! くそったれっ!」


乙矢は手近にある家の壁を拳で殴りつけた。

繋がる。認めたくないが、それで繋がってしまう。

新蔵が一矢から預かったという脇差の正体も。それが一矢の手にあった訳も。そして、おきみが狙われる理由も。

そして何より、乙矢は思い出してしまったのだ。一矢の言った決定的な一言を。


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