弟矢 ―四神剣伝説―
多くは聞き取れなかった。


(乙矢が神剣を抜いた?)


そんな言葉に弥太吉の心の臓は跳ね上がった。



美作の関所で何があったのか、弥太吉はほとんど聞いていない。近くの森に身を潜め、待つように言われたからだ。戻ってきた全員の様子が、関所に向かった時とはまるで違っていた。

一矢と弓月はそれぞれに苛立っており、長瀬の表情は困惑を極めていた。そして、凪は孤高という名の檻に鍵を掛け、閉じ籠もってしまったかのようだ。

どうすればいいのか戸惑う弥太吉に、一矢は言った。


『乙矢が皆をおかしくしてしまった』


そうだ、と弥太吉も思う。

乙矢の言動に皆が惑わされ、この一年、離れたことのなかった遊馬一門がバラバラになってしまった。


『私は弓月殿をお守りし、神剣を手に四天王家の復興を願っているだけだ。それが、勇者の務めだと思っている。だが……弓月殿は乙矢に心を奪われ、鬼と化した正三もまた然り。挙げ句、私の何処が気に入られぬのか、凪殿は盲目の身で宗主となられる始末。のう、弥太吉、おぬしは神剣の主たる私を認めてくれるであろう?』

『はいっ! もちろんです。おいらは一矢さまを信じます!』


そう宣言した。


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