弟矢 ―四神剣伝説―
だが、彼らはそれがいかに危険なことか気づいていない。

里人の殺気は眠りにつこうとした『鬼』を揺り起こし……同時に、乙矢の心もざわめかせた。そして、『鬼』はその間隙を突いて乗っ取ろうとする。


――殺さねば殺される。勇者よ、目の前にいる敵を殺せ。


伝説のどこかで耳にした言葉が頭を掠めた。『勇者は常にその資格を試される』と。


――青龍の勇者よ。我が主よ。さあ、目覚めるのだ。最強の剣士にお前をしてやろう。


(なら、試されてやろうじゃねえか……)


乙矢は腹を括った。そして青龍の呼びかけに応えたのだ。


そこまで、里人の問い掛けには一切答えず、正三の脇に跪いたままの乙矢だったが……無言で立ち上がる。

そして、腰に下げた『青龍一の剣』の鞘を左手で掴み、右手は柄を握った。


周囲は一瞬にしてどよめき、皆、後ずさりを始める。そんな彼らを見据えると、乙矢は軽く息を吐き、ザッと剣を抜き放った。


「お、おい、乙矢!?」


新蔵にも乙矢の考えはわからない。

里人らは、抜かれた神剣に高円の里での一件を思い出した。それは、彼らの殺気をあっという間に恐怖へと変換する。


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