弟矢 ―四神剣伝説―
『弓月どの。綺麗にお仕度ができましたよ』


ふいに、義姉上(あねうえ)の声が耳に響いた。

確か、一年と少し前……そう、結納の日の華やいだ声だ。義姉は母のいない弓月の母代わりとなり、悪阻を堪えて、仕度に奔走してくれた。


『ほう、馬子にも衣装とはよく言ったものだ』


いつも兄の満はそう言って弓月をからかう。

父上は『満と弓月の性格が逆であれば』などと、こぼすことも。だが、遊馬の後継者として、満は過不足のない人物だった。


『気性はともかく、姿かたちは母親そっくりに育ったものだ。文句なく、勇者殿に相応しい花嫁じゃ』


続けて父上の嬉しそうな声も聞こえる。


(花嫁? 今日は結納の日であるのに……)


疑問を口にする暇もなく、義姉に手を取られ弓月は立ち上がった。


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