弟矢 ―四神剣伝説―
しかし、わずかにその横顔を目にした時、弓月は思い出した。


「おぬし、一矢殿に報告に参った蚩尤軍兵士……いや、間者と言ったか。どちらにしても、一矢殿の手の者であろう! 腰の刀を捨て投降せよ。身元が明らかとなれば、いずれ元の藩に戻れよう」


男は言われるまま、帯刀した二本を鞘ごと抜き、草むらに放り投げた。


「遊馬の姫様、いや、『青龍』の勇者様のお言葉に、逆らうつもりなどございませぬ」


背を向けたまま、男は肩越しに弓月を振り返る。その横顔に張り付いた笑顔は、あまりに明白な狂気を宿していた。


「弥太……走れ」

「え? 姫様」

「いいから、走って逃げるのだ! 行けっ!」


強引に弥太吉を突き飛ばした弓月は、なんと丸腰で背を向ける男に『青龍』を抜き斬りかかった。


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