弟矢 ―四神剣伝説―
今の一矢を乙矢に救う術がないことくらい、弓月にもわかっていた。だが……。

ふらっと一矢の体が揺れ、弓月に近づく。

そして、


「弓月……どの……乙矢に……」

「え? 今なんと」


弓月が聞き返した、刹那――宗次朗は森の奥に向かって駆け出す。そして一矢も、まるで繋がれているように宗次朗の後を追ったのだった。


弓月は迷った。

今なら、宗次朗から逃げられる。

だが……彼女の足は森の奥に向かって走り出していた。


ふいに視界が開けたと思った時、弓月は慌てて立ち止まる。すぐ向こうは切り立った崖だ。狭隘(きょうあい)な場所だが、森の中よりは剣が振るいやすいだろう。


一矢の構えは、本来なら乙矢と同じ下段だ。

ところが、今はなんの構えも取らず『青龍』を手に棒立ちだった。

しかし、上段から斬り込む宗次朗を、人外の動きで風が揺らめくように避け続ける。

ゆったりとした動きかと思えば、瞬時に素早い動きに切り替わり、一矢は打突を繰り返していた。

不規則な動きで宗次朗を惑わしているように見えるが、実際には傷ひとつ付けることができずにいる。


やがて、宗次朗はスッと平正眼に構え――そして、一気に一矢の水月(すいげつ)を突き刺した。


「一矢殿っ!」


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