弟矢 ―四神剣伝説―
一矢の帰参を誰より望んでいたのは乙矢のはずだ。それが、同じだけ弓月が待ち焦がれているのだ、と思うと……乙矢は、あるまじき考えを必死で打ち消そうとした。


「それに、鬼を作ろうとするなら神剣は欠かせません。奪い返すならこの時を置いてないでしょう」

「なるほど! それは一石二鳥の作戦ですね、凪先生!」


神剣を取り戻せる、その言葉に弥太吉の顔は一気に明るくなる。


「一矢が出て来なかったらどうすんだよ? それか、奴が神剣の持ち主に選ばれなかった時は……」


乙矢は凪に言い返したつもりだったが、それに答えたのは弓月だった。


「どちらにせよ。一矢殿が勇者でなければ、我らに未来はありません。少しでも決戦を引き伸ばし、待ちましょう。それより先に敗れた時は、それも宿命というもの。ご心配には及びません。乙矢殿に、二度と人殺しなどさせぬよう、私がお守り致します」


昨夜、同じ台詞を聞いた時、確かに乙矢の胸は温かくなった。

しかし、今は……先ほど味わった胸の痛みに、さらに杭を打ち込まれたような気分である。一言も言い返せず、痛みを飲み込む乙矢だった。


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