弟矢 ―四神剣伝説―
「馬鹿はお前だ、新蔵。いくら腕が立っても、短気な猪では役に立たん!」


後方から長瀬にきつく叱責され、新蔵は慌てて手を離す。


「は、はあ……申し訳ありません。ですがっ」

「姫が心配なら、すぐに後を追え。危険が及ばぬよう、お守りいたすのだ。さっさと動け!」

「はっ!」


最敬礼すると新蔵は転がるように廂を飛び越えて行った。



「死に損ないの割にはもう動けるのか? どうやら、心は弱いが、体は丈夫そうだな」


凪や弓月は好意的だが、他の連中の評価はさほど上がってはいないらしい。

本来なら、敬称を付けられても良さそうな身分である。しかし、働きに応じてかボロクソな言われようだ。それも事実なだけに、乙矢には反論すらできない。


「生きてて悪かったな。どっちにしても所詮、地獄じゃねえか」

「――間もなく美作の関所だ。山中を通ってそこを抜ける。問題はその後だ。姫は疲れておられる。爾志の隠れ里があれば、そこで休ませて差し上げたい。おぬしが蚩尤軍に話しておらぬ里はあるまいか?」

「それは……俺を信用するってことか?」

「不服か?」

「そうじゃねえけど。里のことは、連中には話してないよ。俺は次男で何も聞いてないって言ったら、簡単に信じやがった」


それが敵の評価だ。そして、味方の評価も似たり寄ったりである。一人生き残った乙矢を、果たして隠れ里の連中は受け入れてくれるだろうか?


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