弟矢 ―四神剣伝説―
それは当然のことだ、と弓月は思う。
相手は殺そうと掛かってきているのだから、殺されても仕方がないはずだ。黙って殺されなければならないという謂れはない。


「蚩尤軍たってさ、ほとんど幕府軍で、俺たちが反乱を企てたって思い込まされてるだけなんだ。あいつらにとって正義だろうし……一人一人が、誰かの息子で誰かの父なんだよ」


そんなことはわかっている。
だが、それが戦いというものだ。そして、この戦いを仕掛けたのは蚩尤軍と名乗る連中のほうだった。


「――我らが間違っている、と」

「そうじゃない! でも、それを決めることなんか、俺にはできない。一矢にならできると思う。俺にとって刀は『白虎』と同じ、両刃の剣なんだ。相手を傷つけ、自分も傷つける。だったらいっそ、俺が斬られたほうが楽なんだよ。……悪い、やっぱ腰抜けだな」


最後は冗談にして笑って見せた。


神剣『白虎』は両刃の剣。四神剣の中で最も強い力を秘めるが、その分、危うい。籠められた念は最強で、近づくだけで鬼の声が聞こえ、抜いて人を斬りたくなると言われる。何百と斬っても刃毀れ一つなく、血糊すらつかない。結界の張った祭壇で厳重に封印されているはずのそれは、本来、奪われるはずのないものだった。

持ち出す人間さえ、いなければ……。


自嘲する乙矢を見て、弓月は笑えなかった。


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