バット・インソムニア
高城 爽夏は自室のソファーに腰を沈め、秒針のコチコチや冷蔵庫のブーンや耳鳴りのきゅいーんや、つまりはありとあらゆる音に意識を飛ばす。

1つの音に長時間集中しているとあっという間に睡魔に飲み込まれてしまいそうになるので、二秒間隔で次々と対象を変える。

それでも三順目くらいになると瞼がじりじりと降りてくるので、立ち上がって屈伸やアキレス腱を伸ばす程度に体を動かす。

あまり体力を使ってはいけない。

肉体的な疲労は睡眠へと誘う、いわば睡魔に差し出す餌のように思う。

眠ること、それはつまり記憶の中にいる誰かがまた一人、死体になるのと同義だ。

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