ふたり。-Triangle Love の果てに
螺旋階段をあがってゆく、彼の靴音。
そして寂しいドアベルの囁くような音。
グラスの中の琥珀色の液体に目が留まった。
私、バーテンダー失格…
今まで必死になって作り上げてきた「仮面」。
お父さんみたいな一流と呼ばれるバーテンダーになりたい、そう思って頑張ってきたのに。
こんなにもあっさりと、こんなにも簡単に一人の男を前に崩れ去ってしまうなんて。
その「仮面」を取り上げられたら、私はただの臆病者。
お兄ちゃんや周りの人に守られて、一人じゃ何にもできない。
何にも…
そっと唇に触れてみた。
見ると人差し指と中指に、赤いルージュが付いていた。
ああ、こんなにも簡単に取れてしまうものなのね。
所詮、付け焼き刃の強さなんてこんなもの。
私は築きあげてきたものが、音を立てて崩れていくのを感じていた。
ううん、本当は何にも築いていなかったのかもしれない。
あると思っていてもいざとなれば実在しない、蜃気楼のような自信。
見せかけのプライド。
悔しさも感じなかった。
ただ胸にひろがる焦燥感が唯一の感情だった。
そして…
泰兄はYesterdayに来なくなった…
きっとこんな私に幻滅したにちがいない…