ふたり。-Triangle Love の果てに


鏡の前でボンヤリしていた私の耳に、新聞配達のバイク音が響く。


「傷付かずに強くはなれない、か」


彼の言葉の一つ一つを噛みしめるように繰り返してみる。


すっかり口紅のとれてしまった唇。


ポーチから口紅を取り出すと、キャップをあけた。


真っ赤な色が顔をのぞかせる。


赤。


私、この色が嫌いだったはずなのに、どうしてこんな口紅してたんだろう。


血の色、パトカーの赤色灯…


私はもう一度鏡の中の自分を見た。


複雑な表情、無理もないけれど。


これからどうしよう…


お店、辞める?


ううん、そんなことできない。


マスターや恵美さんは、両親が亡くなってからずっと今まで私たち兄妹を気遣ってくれた。


なつみ園にいる時も月に一度は面会にも来てくれた恩人。


でも、店を守るために圭条会に頼ることは頭では理解できても、到底受け入れられそうにない。


絶対にあんな組織と関わりたくない、それが本音。


現実を受け入れる、それが泰兄のいう「勇気」なのかもしれない。


簡単に答えの出ることではなかった。


着替えをすませダイニングに戻ると、ぬっと黒い影が前を横切って思わず悲鳴をあげていた。


「お兄ちゃんっ、びっくりさせないでっ」


これ以上心臓を酷使したら、破裂しちゃうじゃない。


さっきまで泰兄とのことでドキドキしていたのに。


「真琴」


「もうっ、ほんっとびっくりしたんだから。どうしたのよ、こんなに早く」


「どこに行ってたんだい?」


「どこって…それは」


口ごもる私。


まさか泰兄のところとは言えない。


「恵美さんが心配して連絡くれたんだ」


「恵美さんが?」


じゃあ、お兄ちゃんはYesterdayで何があったのか知ってるわけね。


須賀一家と圭条会のことも、


私がナイフを振り回したことも、


全部聞いて知ってるわけね。


それに玄関の濡れた傘と靴。


私を捜してくれていたに違いない。

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