ふたり。-Triangle Love の果てに
「まぁとにかく座ろうか」
テーブルをはさんでお兄ちゃんと向かい合わせ。
いつもはどうってことないのに、今はやけに緊張する。
きっとYesterdayを辞めろ、って言われるだろうな。
私は背筋を伸ばしたまま、お兄ちゃんが口を開くのを待っていた。
「今夜のことは突然でびっくりしたろ?つらかったな、ケガはしてない?」
そんな優しい言葉が、私を自然に笑顔にしてくれる。
「うん、大丈夫。ちょっと気が動転しただけだから。心配かけてごめんね」
「いや、まぁうん…無事ならいいんだよ」
またしても黙り込む私たち。
「あのね」
「あのさ」
タイミングがいいのか悪いのか、重なる声。
「なぁに、お兄ちゃんから言って」
いつもなら「真琴から先にどうぞ」って言うのに、今日に限っては「うん、実はさ…」と珍しく譲らない。
そんなお兄ちゃんの姿に普段と違うものを感じる。
「今回みたいなことがまたあるかもしれない。絶対にないとは言い切れない。マスターたちもお店を守るために必死だから、圭条会とのつながりを断つのは難しいと思っていたほうがいいよ」
「そうね…」
膝の上に置いた指をいじっていると、泰兄にもらったハンドクリームの香りがふわりと鼻をかすめた。
「Yesterdayの仕事、どうするつもり?」
「辞めるか、続けるかってこと、よね。お兄ちゃんはどう思う?」
「俺は」
テーブルの上の拳が堅くなる。
手の甲の血管が浮き出て、今にも皮膚を破って血が噴き出してきそう。
こういうの、昔見たことがある。
お父さんとお母さんのお葬式の時。
弔問客に「君たちが生きてるのは、不幸中の幸いだね」って言われて、お兄ちゃんはうつむいたままこうやって堅く手を握りしめていた。
そして大きく一息つくと、いつも穏やかなお兄ちゃんが別人のように激しくその人に向かって行き胸ぐらをつかんだ。
「幸い!?両親を亡くしてこれからどうやって生きていけばいいのかわからないのに、幸いだって言うのか!?いっそのこと一緒に殺してくれたほうがよかったよ!!」って。
初めて見るお兄ちゃんの荒々しさに、幼い私はとまどった。