ふたり。-Triangle Love の果てに


「元気がないな」


頬に触れる冷たい指の感触に、ハッと顔を上げた。


「何かあったのか」とベッドから彼が身体を起こす。


泰兄の何でも見透かしてしまいそうな瞳が心苦しくて、席を立った。


「ううん、何でもないわ。それより…」


私は窓際に歩み寄ると、カーテンを大きく開けた。


「いい天気ね。外に出てみる?」


話をそらそうとする私の問いに答えず、泰兄は代わりに「勇作のことで何かあったのか」と訊いてきた。


「…違うわ」


「嘘つけ、顔に書いてある」


「泰兄のほうが嘘つき。書いてあるわけないじゃない」


あはは、と笑って振り向くも彼の顔は真剣そのものだった。


ごまかしきれそうにない、そう思った私は覚悟を決めた。


「お兄ちゃんにあなたのことを話したの。圭条会の人だってことも」


「それで?」


「怒ってたわ、ものすごく」


肩をすくめて笑う私に向ける彼の表情は、相変わらず厳しいものだった。


「でもいいの。後悔してない。だってどんなにケンカしたって、離れ離れになったって、お兄ちゃんと私は…」


不覚にも声が詰まってしまった。


何かを察したように、彼の瞳が哀しく光る。


「…兄妹であることに変わりはないから」


私たちは本当の兄妹じゃない、それだけはどうしても打ち明けられなかった。


血の繋がりなんて、関係ない。


生まれてからずっとお兄ちゃんが私を守り、慈しんでくれた、それは間違いないのだから。


しばらくの静寂の後。


うつむいていた私の耳に、シーツの擦れる音がした。


パタン、パタンとスリッパの音。


すぐに私の視界に影ができた。


私の髪を指ですくって耳にかけてくれる泰兄。


「勇作が…おまえに何かしたのか」


えっ、と驚いた私の目に、やるせなさそうな彼の顔。


「どうしてそんなこと訊くの?」


「いや…」と珍しく彼の瞳が揺れる。


泰兄、あなたもしかして私たちのこと知ってるの?


まさかね…


「俺はおまえをもう離さない。おまえが嫌だと言ってもだ」


「…泰兄」


「言ったはずだ、そばにいろってな」


ああ、私にはこの人がいる。


愛してやまない人が目の前にいる。


そして愛してくれる。


お兄ちゃんの日だまりのような愛から飛び出して、私はあなたの嵐のような愛の中に身を投じたのよ。


そばにいるわ、どんなことが私たちを待ち受けていようとも。


「さぁ着替えて。少し外の風に当たったほうがいいわ」


私がシャツに手を伸ばすと、彼は「いい、自分でする」と背中を向けた。
< 224 / 411 >

この作品をシェア

pagetop