ふたり。-Triangle Love の果てに
だって彼の背中で大きな口を開けた龍が、こちらを見ていたから。
艶めく瑠璃色の鱗に、朱色のたてがみを逆立てて、その姿態をくねらせている。
今にも彼の背中から飛び出してきそうな勢い。
でも不思議と怖くはなかった。
だってその龍の瞳を、どこかで見たような気がしたから。
そう、泰兄の翳りのあるその目にそっくりだったから。
私は立ち上がると、ごく自然にその彼の龍の棲む背中に抱きついていた。
「なんて、寂しそうなの」
「寂しそう?」
「ええ。この龍、とっても寂しそう」
なんだか、あなたみたい。
全ての悲しみを心の奥に閉じこめて生きてきた、そんな感じがする。
辛くても辛いとも言えず、じっと心の水面が波立たぬように生きてきた、それをこの龍の瞳が物語っている。
「おまえは変わってるな。大抵のやつは綺麗だとか、彫るのに痛かっただろうとか言うのに。寂しいそうだなんて初めて聞いた」
右の肩甲骨の下と、脇腹の絵柄が崩れているのに気付いた私。
そっと指で触れてみた。
銃弾の痕…
生々しく肉が陥没している。
「…まだ痛む?」
「いや」
私は背後から彼の胸へと手を回した。
生きていてくれるだけでいい。
あなたがどこで何をしようとも、生きてさえいてくれればいい。
あなたを失いかけた恐怖を、もう二度と味わいたくないの。
「もうどこにも行かないで」
私の手に泰兄の大きな手が重なる。
ねぇ、泰兄。
あなたはこの龍と一緒に生きてきたのね。
長い間ずっと…
お互いの顔を見ることなんてないのに、片時も離れることなく。
あなたが前を向けば、「彼」は後ろを向き…
あなたが後ろを振り返れば、「彼」は前を見つめてきた。
でもこれからは私がいるわ。
あなたを見つめ、そして見つめられて、同じ方向を向いて歩いていきたい。
どんなことがあっても、離れたりしないから。
泰兄…
愛してる。
何度でも言うわ。
…愛してる。