ふたり。-Triangle Love の果てに
冷たいお茶をテーブルに置くと、私はソファーではなくラグの上に座った。
お兄ちゃんの恋人で北村翠と名乗った彼女が、トイレから帰ってくる。
「ごめんなさい、あつかましく部屋にあがりこんだ上にお手洗いまで貸していただいて」
「いいえ、それくらいのこと。それより横にならなくでも大丈夫ですか」
私は目の前のソファーを勧めた。
「おかげさまで、ずいぶん落ち着きました。ありがとうございました」
遠慮がちに腰を下ろした彼女は、にっこりと微笑んで小さく頭を下げた。
「兄にこんな素敵な方がいるなんて思ってもみませんでした」
私は正直に言った。
「そんな、やめてください。照れちゃいます。実は彼からは歳の離れた妹さんがいるって、最近になって聞かされたんです。で、一度会ってみたいと思いたって、彼には内緒で来ちゃいました」
舌を出す翠さんは、まるでおてんば娘のよう。
「あのう、兄は元気でしょうか?」
私はずっと心に引っかかっていたことを訊いた。
いつも気にしていた。
ご飯はちゃんと食べてるのか。
洗濯と掃除はこまめにしているのか。
飲めないお酒を無理して飲んではいないだろうか。
ずっと心配していた。
それなのに、私からは連絡を取ろうとさえしなかった。
圭条会の幹部と付き合っている私、ううん、そんな彼ともうすぐ結婚する私をお兄ちゃんは決して許してくれない。
そんな負い目があるから。
私の気持ちを知らずに、翠さんは明るく「ええ、とっても元気。今仕事に燃えてて、スクープを取ってやるんだって、休み返上で働いています」と教えてくれた。
そう…よかった…
ほっとしてせいで、私は思わず大きく息をついた。
「あ、すみません」と慌てて口を抑える。
「ふふっ、本当にかわいらしい人。声をかけてくれたのが、まさか勇作さんの妹さんだったなんて思いもしなかった。だって、彼とあまり似てないから」
あまり…
その言葉は彼女なりの気遣い。
だって私たちは「全然」似てないから。
本当の兄妹じゃないから…
きっとお兄ちゃんはそのことを翠さんにはまだ話していないらしい。
「昔からよく言われました。兄妹には見えないって…」
そう答えてから、彼女にお茶を勧めた。
「いただきます」とグラスを手に取った翠さんは、何かに気付いたようにその手を下ろした。