薄紅のリボン

落雷

 ドオオン!と、大きな音と共に 薄暗かった部屋いっぱいに、刺すような光が飛び散った。


 いつの間にか、寝入って居たらしく ソファで読んでいたはずの雑誌が、床に落ちていた。
一瞬の閃光の後、部屋は また暗くなっていた。

ゴロゴロと真っ暗な雲が 唸りをあげている。雨粒が 窓ガラスに叩きつけられている。

音にびっくりして、ソファからずり落ち 腰を打った。予想外に 真っ暗な部屋に、また 驚いてすぐに動けなかった。腰がジンジンする。
 
 今、何時だろうか?

 今朝 夜勤から帰って来て、シャワーを浴びているうちに 母親が食事を作っていてくれた。別に 頼んでる訳じゃないが、いつも 作っておいてくれる。

 学生時代、色々な事に興味があった。面白そうな事があれば、なんでもやったし。部活もバイトも 面白かった。


 ただ、心から打ち込めるものには 出会えなかった。


 勉強も運動も、頑張らなくても そこそこ出来た。友達も彼女も いつもそばに居た。なんとなく、ノリだけで生きていた。
 高校も、もうすぐ卒業という時期になっても 進路を選べなかった。

 何がしたいのか、どこへいけばいいのか 選べなかった。


 いつも一緒に馬鹿ばっかりやっていた仲間が、いつの間にか 夢という言葉を口にし、目指すべき道を選び、ひとり取り残された気持ちになった。


焦っても、必死になっても 何かを大きく間違えているようで、いつも足元がふわふわしている。結局、大学へは進学せず 親友と同じ職場に就職した。

だが、思うようにいかない毎日ばかりで、いくつもの職業を転々とした。

面白そうな仕事を選び、つまずく度に ここじゃ無いと言い訳ばっかりしてた。


 今も、変わってない。都会に住んでたこともあったが、結局 仕事が続かず実家に戻ってきてしまった。工場で夜勤のバイトをしているが、それもそろそろ 潮時かもしれない。来年は、もう 28歳だ。体力だけで乗り越えるのも いつか限界がくる。

 俺は、この先 何がしたいのだろう・・・。

 タバコの箱を探ると、最後の1本だった。カチリと100円ライターが、乾いた音をたてて、炎をあげる。
タバコに火をつけ、ゆっくりとため息と共に煙を吐き出す 間宮 秋一。
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