電網自衛隊
 そして水曜日に入り、ついに一般家庭や企業のオフィス、商業施設の固定電話がつながりにくくなり始め、午後には完全に不通になった。防衛省を含む政府の庁舎の固定電話も次々と雑音だけが聞こえる状態になり、閣僚や官僚間の連絡までが支障をきたすまでになった。
 サイバー空間防衛隊は首相官邸とアメリカ、EU諸国などとの直通専用電話、いわゆるホットラインの点検と万一の時の迂回回線の確保を命じられた。もうトイレ以外は部屋を出る余裕はなく、全員が部屋の中でおにぎりとペットボトルのお茶で食事を済ませ、交代で床に寝袋に入って睡眠を取っていた。
 そして水曜の夜、都内のとある中堅企業の総務部で騒ぎが起きていた。3月末時点での決算書類制作のため残業で稼働していたパソコンが突然一斉に動きが遅くなり始め、ついにはマウスやキーボードをどう動かしても画面が変化しない、いわゆるフリーズした状態になった。
「変ですね」
 若手の男性社員が部長に顔を向けて言った。
「まさかウイルスじゃないでしょうね」
「馬鹿な事を言うな」
 部長が不機嫌そうに言い返す。
「うちの会社のネットワークはイントラネットだろう?ええと、閉鎖型と言うんだったか?そんな事は起こり得ないはずだ」
「これ、今ニュースで騒ぎになっている電話の通信障害と何か関係があるんじゃないかしら」
 別の女性社員が言った。
「部長、警察かどこかに届けておいた方がよくありません?」
「馬鹿な事を言うな!」
 部長は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「もしそうだとして、そんな事が世間に知れたらわが社は非難の的になるぞ。君は会社をつぶしたいのか?」
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