電網自衛隊
 サイバー空間防衛隊の本部のある市ヶ谷の駐屯地も一時停電に陥った。突然真っ暗になった部屋の中で、昇二たちは非常用懐中電灯を一斉につけた。近くの女性隊員が内線電話を取り上げてどこかに連絡をしようとしたが、「あれ?」と叫んだ。
「何これ?全然音がしない」
 それを見た山口1尉が自分の机の電話機の受話器を耳にあてた。
「ツーという音さえしないな。そうか!この電話機は外部からの電気で動くやつだ。停電したから電話機そのものが動かないんだ」
「え!じゃあ、どうするんですか?外部との通信が途絶する」
 そう叫んだ昇二に山口はにやりと笑って隊長の席を指差した。そちらに目をやると、隊長があの骨董品の黒電話の受話器を取り上げていた。そのまま耳に当てダイヤルを回す。すると通信音が昇二の耳にも聞こえて来た。隊長はやがて受話器に向けて話し始めた。
「非常電源は?そうか、あと五分だな。分かった。こちらは全員異常なし。以上」
 山口が昇二に言った。
「昔の電話機は電話線が電線を兼ねているんだ。通常の送電線とは別系統だから、停電しても電話はつながるわけさ」
「なるほど。いつか山口1尉が言っていたのは、この事だったんですか」
 数分後、自家発電機が作動し部屋に明かりが戻った。外の様子を見に行っていた隊員が戻って来て隊長に大声で報告する。
「駐屯地の外は完全に停電しています。かなり遠くまで真っ暗でしたから、おそらく都内全域かと」
「そうか」
 隊長は落ち着いた様子を崩さずに隊員全員に向けて告げた。
「よし、業務を再開しろ。山口1尉、新田3尉、こちらへ来てくれ」
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