姫は救うと微笑み、神は殺すと無邪気に言った
「人は苦しんでこそが美徳だ。理性という皮が剥がれたその下の本性。野ざらしにされたそれらは、見ていて爽快なんだ。人の腹の中をひっくり返し、心に土足で踏みいるのは真の娯楽。隠したいと願いしことを、自らの苦悩でぶちまける時なんか笑えてくる。
不満や理不尽。高まり、吐き出された醜さは他人が愛でてこそ、ついに美しくなる。僕はそれにより、その人間を生かすか殺すか判断するんだ。
ああ、この前もいたな。死にたいと一番に願ってすがってきた子だが、死ぬときになって生きたいと思い始めた」
ありし日の思い出は、語るも楽しいか、悪魔子のように茶神は続ける。
「生きたいと思っても死にたいには及ばない、単なる“迷い”にしても、二番目に生まれた願いには違いない。だからわざと殺さなかった。一番ではなく二番目を叶えた。
体に大きな傷痕を残してね。それを見る度にあの少女は葛藤するだろう。死に損なったわけを、生きたいと迷った瞬間から生じた二番目を。全ては自分が招いた結果だと、また死にたくなった時には、あの時のように死ぬことなんかないと、死への逃亡も自ら除外してしまう」