無口な彼が残業する理由 新装版

私には気がないと、青木は理解している。

だけど、その上で迫ってくるからどうして良いかわからない。

先輩の目も気にせずに恐ろしいほど強気だ。

もっと派手に拒否すれば良いのかもしれないけれど、

そうするとこれから毎日どんな顔をして隣の席に座れば良いのかわからなくなってしまう。

青木はそんな私の心理を見抜いているのかもしれない。

ただ、丸山くんのように有無も言わせず強引にキスしたりしない。

私はそれが本気と気まぐれの違いのような気がして

またチクリと胸が痛んだ。



私は丸山くんが好きで。

丸山くんは青木が好きで。

青木は私が好き。

私たちが織り成す三角形は、ベクトルの向きが合わないわけではなかった。

それぞれがそれぞれを追い合って、

グルグル回っているだけだった。


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