無口な彼が残業する理由 新装版

「先輩に向かってあんたはないでしょー。相変わらず生意気よ、青キング」

声と青木の呼び名でわかった、青木の背中の向こう側。

青木を青キングと呼ぶのは一人だけ。

入ってきたのは菊池さんだ。

「こんなところでイチャイチャするの、やめてよね」

菊池さんの呆れた声で、青木はやっと私を解放した。

「邪魔しないでくださいよ。良いとこだったのにー」

おどける青木。

鼓動を落ち着けるのに必死な私。

「諦めてるって言ってたくせに、今日は随分張り切ってるじゃない」

「あいつがあまりにも不甲斐ないから、チャンスだと思って」

「人の苦しんでる隙に付け込むなんて最低」

「言い掛かりですよ。あいつが良いって言ったんですから」

まただ。

また会話が暗黙の了解を含んで展開されていく。

私はいつの間にみんなの会話についていけなくなっちゃったんだろう。

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