無口な彼が残業する理由 新装版

私がウトウトし始めた頃、

ガチャガチャと扉が開く音がした。

「起きてたの?」

ビニール袋を持った丸山くんのお帰りだ。

頷くと、大きな手が私の額に触れる。

「ドラッグストアがあったから、解熱剤買ってきた」

箱を開封し、二粒。

私の体を起こしてスポーツドリンクで飲ませてくれる。

なんだかお母さんみたいだ。

彼氏みたいだ、なんて思えない。

「ねぇ、丸山くん」

「なに?」

「あんまり近くにいると、うつっちゃうよ」

「あんたが治るなら、うつったっていい」

言いながら頬を撫でるから、

じわっと目に涙が溜まる。

何で、そんなこと言うの?

私のこと、邪魔なくせに。

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